Apple社元CEO、Steve Jobs氏死去 ... そして、Appleに見るパノラマVR普及の足跡をもう一度おさらい
今朝一番の悲しいニュースです。
世界中のクリエイティブ業界で活動している人達で、影響や恩恵を受けてない人がどこに居るでしょうか?
それほどまでに、数多の「創造する道具」を生み出し続けてきた奇才、米アップルコンピューター社の共同創設者にして現アップル社の前CEO、スティーブ・ジョブズ(Steve Jobs)氏が今朝、お亡くなりになりました。享年56歳。余りにも若すぎる死です。

■ Apple - 追悼 Steve Jobs
http://www.apple.com/jp/stevejobs/
我々パノラマを作ったり見たり出来るのも、Appleが1995年にQuickTimeにVRレイヤーを実装し、さらにパノラマVRコンテンツ制作のためのオーサリングソフト「QuickTimeVR Authoring Tool Suite」をリリースしたお陰と断言して良いと思います。それまで実験室レベルでしか実現し得なかったパノラマVRコンテンツを、一気に民生レベルにまで昇華させたのは、まさにAppleの功績の何ものでもないでしょう。QTVRATがリリースされた頃は既にジョブス氏はAppleを追い出された後なのですが、"クリエイティブマシン"としての「Macintosh」と"クリエイティブの為の映像フォーマット"としての「QuickTime」はジョブスが去った後でも粛々と開発され続けました。
さらに、そのアプリケーションパッケージ版「QuickTimeVR Authoring Studio」の発売(1997年)によって、個人でも簡単にQTVRパノラマ/オブジェクトコンテンツが作れるようになったのです。

勿論、このソフトの販売は終了していますし、第一、QTVRレイヤーそのものがQuickTimeXで消滅してしまったので、もうお役目を終えてしまったソフトではあります。しかし、ウェブページは未だ残ってるんですよ。ご存知でした?
□ アップル - QuickTime - QuickTime VR Authoring Studio
http://www.apple.com/jp/qtvr/authoringstudio/
アクアUIで構築されたメニューが非常に懐かしいですね。しかもページのエンコードがUTF-8じゃなくてShift-JISなのも、時代を感じます。
ボク自身も1995年発売のQTVRATSは、大学の研究室のMacにインストールされていて、MPW(Macintosh Programmers Workshop)というコマンドラインベースのプログラムでシコシコやってたのを覚えてます。
森高千里の「渡良瀬橋」CD-ROMは、このQTVRATSで作られた日本でほぼ唯一の商用パッケージコンテンツとして、その当時は非常に話題にのぼりました。中古市場でもまだ下記のように出てくるので、OldMacや古いWinマシンをお持ちの方は一度ご覧になられてみては如何でしょうか?
その当時はCD-ROMパッケージの全盛期で様々なタイトルがリリースされましたが、QTVRが使われているといえば、下記タイトルに敵うものは無いでしょう。今みても斬新で、素晴らしいコンテンツです。

□ 100 Masterpieces: From the Vitra Design Museum Collection
Shovkwaveの中に埋め込まれたQTVRパノラマをフルに駆使して、美術館内を余すところなく巡回し、展示されている全ての椅子をクリックして詳細データを閲覧することが出来、時にはQTVRオブジェクトで椅子をグルグル見渡せることも出来ます。解像度もCPUパワーも少なかった時代に、あれだけパワフルでしかも軽快なコンテンツは、今後も簡単には出てくることは無いでしょう。
上記2作品はボクもとうぜん所有しています(「渡良瀬橋」は無期限借り物ですが)が、未だにボクのお見本です。これらの作品を超えるものを作るのを目標にして、パノラマVRコンテンツ制作をしています。
パノラマVRコンテンツの進化は、そのままインタラクティブコンテンツとしての表現力の進化でもあります。
2000年前後はまさにパノラマの過渡期で、Javaパノラマが一方で台頭し、アメリカを中心に不動産業界でのパノラマVRコンテンツのニーズが確固たるマーケットを築きました。そうすると、クリエイティブというよりは、テンプレートを駆使した大量生産品のマーケットになり、UIも含めて考えられる優秀なコンテンツが出なくなったのもこの頃です。
時を経て2002年にデンマークのHansNyberg氏によるサイト「Panoramas.dk」が開発したQTVRコンテンツのWebページフルスクリーン化を実現するJavaScriptが登場したことで、今まで鈍重だと思われて来たパノラマVRコンテンツが、意外と軽いファイル容量でフルスクリーン解像度を表示させることが出来ることが分かり、さらに世界的なブロードバンドネットワークインフラが整備されてきたおかげで、超高精細で美術価値の高いリッチコンテンツとしてのQTVRが大きくクローズアップされるようになってきました。余りにも単体でキレイなので、ヴァーチャルツアーものが少ないのも、この頃の特徴でしょうか。
その流れを受けて、このブログ「QTVR Diary」もスタートしたのです。2005年3月のことでした。
その後2006年には、Javaパノラマで一世を風靡し特許を盾に他社を排斥してきた米IPIX社が倒産して、数年前までパノラマ技術の開発を行って来た研究家が改めて表舞台に建てる日がやって来ました。すると時代はますますQuickTimeVRに再度脚光を浴びることになるのかなぁ...と思いきや、Flashの3次元リッチメディアライブラリ「Papervision3D」を使ってパノラマVRプレイヤーを開発するメーカーも出て来ました。やはり圧倒的なブラウザインストール率を誇るFlashプラグインの前には、どうしてもQuickTimeは分が悪いです。その後数年間は、「Flash Panorama Player」「PanoSalado」「krpano」と言った、Flashベースの商用パノラマプレイヤーライブラリーが続々と登場して、インタラクティブコンテンツとしてのパノラマVRコンテンツが非常に多くなって来ました。ヴァーチャルツアーものもどんどん増えて来ましたね。特にクリエイティビティ豊かなデザイン性溢れる素晴らしいコンテンツが増えて来たのが印象的です。Flashクリエイターと呼ばれるWeb制作者が徐々にパノラマVRコンテンツに触れ出したのもこの頃からでしょう。
しかしAppleの起死回生ともなる一手が、御大、SteveJobs氏によってもたらされます。それが「iPhone」でした。特に第3世代の「iPhone3G」からは、ブザウザでのリッチコンテンツがHTML5/css3を推奨し、Flashを受け付けないという暴挙とも言える戦略に乗り出しましたが、これが新たな体験、マーケット、そして開発環境を生み出します。
元々、パノラマVRコンテンツは、タッチパネルと非常に相性が良いものでした。
画面を指でなぞれば画面に映し出される空間がグルグル動いて、上下左右360x180°全方位見ることが出来るのは、直感的で非常に面白い体験です。しかもiPhoneは、画面以外の部品を極力シンプルにすることによって画面に没入させることに成功している、プロダクトデザインとして練りに練られた製品です。従って、コンテンツへの没入感が半端ない製品の中で、さらに仮想空間として容易なインタラクションで動作するパノラマVRコンテンツは、まさにiPhoneのためにあるコンテンツとも言えるでしょう。
さらにiPadの登場で、その地位は確固としたものになります。
上記の没入感は、画面が大きくなったことでさらに増し、内蔵のジャイロセンサーを駆使したコンテンツでは、iPadの位置を変えることでパノラマVRコンテンツの視野を変えることまで出来てしまいます。まさに眼前の風景だけが変わる文字通りのヴァーチャル体験を、皆さんにもぜひ味わって欲しいです。
そんな制作環境も、整いつつあります。
現在では、Pano2VRがGUIベースでのヴァーチャルツアーコンテンツを総合的に作成できる便利なソフトとして、当「パノラマニア,ストア」でも非常に人気が高いです。
iOSに実装するためのOpenGLベースでのパノラマVRプレイヤーライブラリのオープンソースプロジェクトもいくつか台頭していますが、高度なインタラクションを与えるためには、Flashベースだった「krpano」がiOSプラグインを使用することで、モバイルSafari上での使用だけでなくアプリ内実装も可能に、簡単なヴァーチャルツアーはこれで完結してしまいます。
さらには、krpano+iOSプラグイン+GoogleMapsプラグインが最初からソフトウェア内部に実装され、さらにGUIベースで非常に簡単に複雑なヴァーチャルツアーコンテンツを作成できる「PanotourPro」は、マルチメディアコンテンツを含むデザイン性優れたヴァーチャルツアーを、Flash版/iOS版の同時書き出しが出来るので、ボクのイチ推しです。日本語ローカライズはボク自身が現在誠意翻訳中。再来週にもこのブログでチュートリアル和訳を始めますので、ご期待下さい!
パノラマVRコンテンツ普及の足跡には、常にAppleが寄り添っていました。時には距離を置き、時には接近しますが、全く離れることは無いでしょう。今後も全てのパノラマを愛する方に、同時にApple製品を愛してもらえたら嬉しいなぁと、心から想います。
ボク自身は、1991年1月にSE/30を大学生協で購入してから、全く浮気無し20年間Mac一筋な輩です。純正マカーです。自覚も自負心もあります。
そして最初に入れたIllustrator88も、Photoshop1.0も、AfterDarkも、FaxSTFもつい数年前までSE/30で稼働させていました。
デザインをタイポグラフィから入ったボクには、Macは夢の道具でした。それがグラフィックデザインになってもWebデザインになっても、そしてパノラマVRコンテンツの制作になっても、その道具に対する想いや夢や無限性や可能性は、全く変わりません。
これだけ道具に対して畏敬の念を持たせられるコンピューター製品を作り続けて来たApple、そしてそれを興し、さらに再興したSteveJobs氏には、何度お礼を言っても言い尽きることがありません。本当に安らかにお休み下さい。
そして神様にも、iPhoneやiPadを使わせて上げて下さい。
当然その中にはパノラマVRコンテンツが入っていて、地球上の美しい風景や人類の笑顔溢れる暮らしぶりを、"Amazing"で"Incredible"な体験で見せて上げて下さいね!
あ、忘れてた。
折角なので、SteveJobsの伝説をひとつ引用。ご覧になった方も多いんじゃないかと想いますが、この機会に改めて。
2005年に行われた、スタンフォード大学での卒業式式辞です。
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